介護保険の現金給付は「禁じ手」なのか?(講演会サマリ)
更新日:9月4日
友和リサーチセンター主催 2026年03月05日(木)開催
テーマ:介護保険の現金給付は「禁じ手」なのか?
~国際比較から見える日本の介護保険制度設計の限界と選択肢~
講師:溝口博重氏(株式会社AMI&I代表取締役)

介護現場の慢性的な人手不足や2040年問題を抱える日本の介護保険制度は、現役世代の減少を見据え、「給付の効率化」と「介護人材の確保(賃上げ・生産性向上)」を軸に大きな変革期を迎えています。2024年度のプラス改定に続き、2026年には「臨時の介護報酬改定」が行われるなど、人材確保と物価高への緊急対応が続いています。一方で、次期(2027年度)の大規模改正に向けた議論も現在進行中です。
サービスの充実を中心とした議論から、現在は「限られた人員と財源で、制度をいかに持続可能な形で維持するか」という命題へと焦点が移っています。そのため、財政、人材、制度運用など、複数の視点からの検討が必要とされています。
友和リサーチセンターでは、3月5日(木)、株式会社AMI&I代表取締役の溝口博重氏を講師に迎え、『介護保険の現金給付は「禁じ手」なのか』と題する講演会を開催いたしました。本講演では、国際比較を通じて、日本の介護保険制度設計の限界と今後の選択肢について解説いただきました。
本講演は、「現金給付導入の是非」を単純に論じるものではありませんでした。日本の介護保険制度がなぜ現金給付を避け続けてきたのか、また人口構造の変化、人材不足、財政制約が進む現在において、その判断がなお妥当なのかを問い直す内容でした。制度設計思想と現実との乖離を検証するうえで、示唆に富む講演会となりました。
本サマリーでは、日本の介護保険制度における現金給付をめぐる議論を、国際比較の視点から整理します。具体的には、世界の潮流、日本の現状と課題、海外事例、今後の方向性を順に確認し、主要な論点と提言を簡潔にまとめます。あわせて、現金給付の国際比較と、介護保険制度の持続可能性をめぐる議論についても考察し整理しています。
さらに詳細を確認したい場合は、講師使用のスライドをご確認ください。 (友和リサーチセンター 小林康子)
講演会サマリ
日本の介護保険制度は、2000年の創設以来、一つの大きな理念を掲げてきました。
それが、「介護の社会化」です。
それまで家族、特に女性に集中していた介護負担を家庭だけの責任にせず、社会保険によって専門職による介護サービスを保障する。そのため、日本は制度創設時に家族介護への一般的な現金給付を採用せず、現物サービスを中心とする制度を選択しました。
講演では、この考え方を、「介護は家族に戻さず、プロのサービスで解決する」という、日本の介護保険が25年間守ってきた約束として整理しています。
しかし、制度開始から四半世紀が経過し、その前提となる環境は大きく変化しています。
高齢化が進む一方、生産年齢人口は減少し、介護サービスを担う人材の確保はますます難しくなっています。厚生労働省の推計では、2022年度に約215万人だった介護職員について、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人が必要とされています。つまり2026年度までに約25万人、2040年度までには約57万人を追加的に確保する必要があります。(厚生労働省)
こうした状況の中で、制度としてサービスを受ける権利が存在しても、実際に提供する人がいなければ介護保険は機能しません。
本講演は、単純に「日本も現金給付を導入すべきだ」と主張するものではありません。
日本はなぜ現金給付を避けてきたのか。海外ではなぜ現金給付を制度に組み込めているのか。そして、介護人材の確保が困難になる中でも、日本が現物給付だけに依存する制度を維持し続けることは可能なのか。
「現金給付の是非」そのものではなく、「介護保険制度の持続可能性をどう確保するのか」という視点から、国際比較と日本の制度構造を検討しました。講演自体も、「公的介護保障の世界的潮流」「現金給付導入見送りの論理構造」「診療報酬と介護保険報酬のねじれ」「現金給付は日本でどこまで可能か」という流れで構成されています。
1.公的介護保障の世界的潮流
1.1 現金給付は海外では「禁じ手」ではない
長期ケア(Long-Term Care:LTC)は、高齢化が進む各国において社会保障制度の重要な領域となっています。
制度の財源や給付方法は国によって異なりますが、海外を見ると、専門事業者による現物サービスだけではなく、
Cash Benefit(現金給付)
Cash Allowance(介護手当)
Personal Budget(個人予算)
などを制度の中に組み込む国が複数存在します。
日本は、介護保険本体に家族介護等に対する一般的な現金給付を設けていない代表的な国です。ただし、海外の制度を「家族に自由にお金を渡している制度」と理解するのは適切ではありません。
実際には、給付対象、金額、使途、ケア計画、家族介護者の要件、モニタリング、支払方法などを細かく設計し、現金を「制御された選択肢」として制度の中に組み込んでいるのが特徴です。
1.2 ドイツ――現金とサービスを組み合わせる
ドイツは1995年に公的介護保険を導入しました。
日本の介護保険制度を設計する際にも重要な参考国となりましたが、大きな違いがあります。
ドイツでは在宅介護について、
Pflegegeld(介護手当・現金給付)
Pflegesachleistung(現物給付)
Kombinationsleistung(組み合わせ給付)
という三つの選択肢があります。講演でも、この三層構造と、現物サービスの利用割合に応じて現金給付額が決まる仕組みを重要な特徴として説明しています。
2026年3月時点の介護手当は、
Pflegegrad 2:月347ユーロ
Pflegegrad 3:月599ユーロ
Pflegegrad 4:月800ユーロ
Pflegegrad 5:月990ユーロ
です。これは2026年に4.5%引き上げられた額ではなく、2025年から適用されている額が2026年も継続しているものです。(BMG)
また、現金給付のみを利用する場合にも定期的な相談・モニタリングが求められます。
さらに、現金給付額は専門事業者による現物給付の上限より低く設定されています。
つまりドイツは、家族や知人による介護を制度として認めながらも、「現金給付=専門サービスと同額の給付」とはしていません。
選択の自由と、財政・質の管理を組み合わせている点が特徴です。
1.3 オランダ――「現金」ではなく管理された個人予算
オランダでは2015年の改革によって、長期ケア法(Wlz)、社会支援法(Wmo)、医療保険法(Zvw)などへ制度が再編されました。
特徴的なのが、PGB(Persoonsgebonden Budget:個人予算)です。
PGBは単純な現金給付ではありません。
利用者がケア提供者を選び、ケア内容を決めるための予算枠であり、講演では、「選択権付き・管理付き・目的限定型予算」と整理しています。
さらに、SVB(Sociale Verzekeringsbank:社会保険銀行)が支払いを管理するTrekkingrechten(代理支払制度)が導入されており、利用者が公費を自由に引き出して使用するわけではありません。
契約や請求に基づき、SVBが介護提供者に支払います。
講演スライドでは「PGB 2.0への移行を完了」としていましたが、ここは補正が必要です。2026年3月時点ではPGB 2.0は既に稼働しているものの、自治体を含む全国的な移行は段階的に進められている途中です。VNG(オランダ自治体協会)も段階導入であることを明記しています。(VNG)
オランダの事例が示す重要な点は、利用者の選択権を広げることと、公的資金を管理することは両立できるということです。
1.4 スロベニア――現金給付と家族介護者制度を別々に制度化
スロベニアでは2023年に成立した長期ケア法(ZDOsk-1)に基づき、新たな長期介護保障制度が段階的に導入され、2025年12月から主要な給付体系が出そろいました。
講演では、後発国だからこそ複数の給付方式を当初から並べた制度として紹介しています。
ここでは二つの制度を分けて理解する必要があります。
一つは、Denarni prejemek(現金給付)です。
もう一つが、Oskrbovalec družinskega člana(家族介護者制度)です。
こちらは現金給付とは別制度で、一定の要件を満たした家族介護者に対し、1人を介護する場合には最低賃金の1.2倍、2人の場合には1.8倍相当の所得補償を行い、社会保険にも加入させる制度です。家族介護者制度自体は2024年1月から導入されています。(Portal GOV.SI)
つまりスロベニアは、要介護者への現金給付と、介護を担う家族そのものへの制度的保障を別々に設計しています。
1.5 韓国――供給困難時に限定した現金給付
韓国では2008年から老人長期療養保険が運用されています。
基本的には日本と同じく現物給付中心ですが、離島・山間部など介護サービスへのアクセスが困難な場合や、特別な事情がある場合には、家族療養費(Family Care Benefit)という特別現金給付があります。講演でも、「全面的な現金給付ではなく、供給困難時に限定したモデル」として取り上げています。
スライドでは月額15万ウォンとしていましたが、2026年1月からは月240,450ウォンに引き上げられています。(韓国国民健康保険公団)
韓国型は、日本に現金給付を導入すると仮定した場合にも、「全国一律で導入するのではなく、サービス供給が成立しない地域・ケースに限定する」という中間案を考えるうえで参考になります。
1.6 台湾・イスラエル
台湾では2026年から「長期介護3.0」が始まっていますが、ドイツやオランダのような現金給付型制度の代表例ではありません。
基本的には在宅サービス、地域サービス、レスパイト、福祉用具、家族介護者支援などのサービス給付中心型であり、現金給付を積極的に制度化している国との比較対象として位置づける方が適切です。
一方、イスラエルでは、要介護度や利用条件に応じてサービス給付と現金給付を組み合わせる仕組みが存在します。講演では、現物か現金かという二者択一ではなく、状況に応じて組み合わせるモデルの一つとして紹介しました。
1.7 国際比較から見えてくること
各国を比較すると、現金給付には一つの正解があるわけではありません。
ドイツは現金と現物の組み合わせ、オランダは管理された個人予算、スロベニアは現金給付と家族介護者制度の併設、韓国は供給困難時に限定した現金給付というように、制度設計は大きく異なります。
共通しているのは、現金給付を無条件の自由な給付にはしていないということです。
認定、契約、相談、モニタリング、支払管理などを組み合わせ、家族やインフォーマルケアを制度の外に放置するのではなく、管理可能な形で制度の中に接続している点に特徴があります。
講演ではこの変化を、「現金給付は自由ではなく、制御された選択肢へ」と整理しています。
2.日本はなぜ現金給付を導入しなかったのか
日本が現金給付を採用しなかったことには、明確な理由があります。
講演では、制度創設時に懸念された主な問題を、
家族介護の固定化、特に女性への負担集中
介護の質の低下・密室化
専門的な介護サービス基盤の発展阻害
不正受給・給付費膨張
という四つに整理しました。
これらは後付けの説明ではありません。
厚生労働省の過去の検討でも、家族介護の固定化、自立支援への影響、介護の質、サービス基盤への影響などが現金給付に慎重な理由として示されています。講演でも、まずこの公式な制度論上の理由を確認しています。
そのうえで、講演では政策過程論の観点から二つの要素を追加しました。
一つが、Blame Avoidance(非難回避)です。
現金給付を導入すれば、新たな給付を誰まで認めるのか、その財源を保険料や税でどう負担するのかという政治的に難しい問題が生じます。
もう一つが、Path Dependence(経路依存)です。
日本では25年以上にわたり現物給付を中心に制度を作り、ケアマネジメント、市町村、介護事業者、専門職などによる巨大なサービス供給システムを形成してきました。
そこから大きく制度を変更する場合、財源配分、雇用、監督、質保証など広範囲な調整が必要になります。
ここは、政府が公式に「既得権があるから現金給付を導入しない」と説明しているわけではありません。
講演では、政府の公式理由と、政治学・政策過程論から見た講師の分析を分けて提示しています。
3.日本の診療報酬と介護保険報酬の「ねじれ」
今回の講演で、現金給付の国際比較と並んで重要な論点となったのが、医療と介護の制度的な「ねじれ」です。
講演では、これを単なる「介護報酬が安い」という問題ではなく、三つの構造的な不整合として整理しました。
第一は、報酬差・価格差のねじれです。
高齢者の重度化・医療ニーズの増加によって介護現場が担う業務は高度化していますが、それに必要な人員配置、多職種連携、ICT、医療的ケアのコストが、必ずしも介護報酬に十分反映されるとは限りません。
第二は、インセンティブ不整合です。
医療と介護は「在宅生活の継続」「円滑な退院」「QOLの維持」という同じ目的を掲げていても、情報共有や多職種連携への評価方法は別々です。
その結果、「必要だからやるべきこと」と「報酬上評価されること」が一致しない場面が生じます。
第三は、境界運用・事務負担のねじれです。
医療保険と介護保険には異なる給付ルール、計画、記録、請求体系が存在し、特に訪問看護などでは同じサービスでも適用される保険によってルールが変わります。
その結果、現場が制度間の摩擦を吸収し続ける構造が生じています。
3.1 2026年度の期中改定
2026年3月5日の講演時点では、2027年度の通常改定を待たず、2026年度に介護報酬の期中改定を行うことが決定されていました。
改定率は+2.03%で、介護従事者について月1万円、介護職員について定期昇給込みで最大月1.9万円程度の賃上げを可能とする水準が示されていました。(厚生労働省)
この改定は、人材確保・賃金改善への緊急対応という意味を持ちますが、講演では、報酬、インセンティブ、制度運用そのものの不整合を解決するものではないと指摘しました。
3.2 なぜ「ねじれ」が現金給付につながるのか
ここが今回の講演の重要なポイントです。
現金給付は、医療と介護の「ねじれ」の原因ではありません。
むしろ、
制度のねじれ
↓
介護事業者や人材の確保が難しくなる
↓
サービスを提供できない
↓
「現物サービスを提供する」という制度の前提そのものが崩れる
という問題の先に現金給付が浮上します。
講演では、「事業所はあっても人がいない」「医療ニーズが高く介護側では受けきれない」「医療と介護の境界でサービスが止まる」という状況を示し、サービス給付への過度な依存が「権利はあるが実体がない保険」を生むリスクを指摘しました。
その意味で現金給付は、介護制度の問題そのものを解決する制度ではありません。
講演ではむしろ、ねじれを解消する制度ではなく、ねじれを「これ以上悪化させないための暫定解」と位置づけています。
つまり現金給付は、介護の理想像として登場するのではなく、サービス供給だけでは制度が成立しなくなった際の「調整弁」として考えるべきだということです。
4.現金給付は、日本でどこまで可能か
海外の事例をそのまま日本に輸入すればよいわけではありません。
現金給付には、
家族介護の固定化
女性への負担集中
介護の密室化
質の管理
不正利用
新たな財政負担
といった問題が残ります。
一方、海外ではそのリスクに対し、
ドイツ:定期相談・モニタリング
オランダ:本人に現金を渡さない支払管理
韓国:対象を供給困難ケース等に限定
といった制度設計で対応しています。
つまり、「リスクがあるから現金給付はできない」のではなく、どのリスクを、どの仕組みで管理するのかという問題として捉えることができます。
4.1 全面導入と現状維持の間にある「中間設計」
講演では、日本で考え得る政策の方向性として、全面的な現金給付か現状維持かという二択ではなく、三つの中間案を提示しました。
これは政府方針ではなく、講師による政策上の私案です。
一つ目は、管理型の個人予算
オランダのPGBのように、利用者に介護の選択権を与えながら、公的機関等が予算・契約・支払いを管理する方式です。
現金そのものを本人に渡さず、目的をケアに限定することで、不正利用や使途逸脱を抑えます。
二つ目は、供給困難時等に限定した現金給付
韓国のように、全国一律の制度とせず、
中山間地域・離島
サービス提供事業者が存在しない地域
特別な事情によって通常サービスを利用できないケース
などに限定して現金給付を認める方式です。
三つ目は、介護保険の外側での家族介護者支援
介護保険そのものは専門サービス中心という理念を維持しながら、介護休業、就労継続、レスパイト、相談、所得保障などによって、家族介護者を支える方法です。
現金給付を導入するか否かではなく、どの制度から、誰に、何を支援するのかを分けて検討する必要があります。
5.介護保険制度の「持続可能性」とは何か
今回の講演で、最終的に問い直したのが、「介護保険制度が持続可能であるとは、どういう状態なのか」という問題です。
講演では、「必要な時に、必要なケアの担い手が物理的に存在し続けていること」を持続可能性の重要な条件として提示しました。
これは、介護保険の持続可能性を財政収支だけで評価してはならない、という意味です。
5.1 財政的持続可能性
日本の介護費用は増加を続けています。
ただし、講演資料にあった「2025年に15兆円を超えた」という表現は補正が必要です。
「2025年度に15兆円を超える」という数字は過去の将来推計として示されていたもので、2025年度予算ベースの「介護」は14.0兆円、GDP比2.2%です。(厚生労働省)
またOECDの2023年比較では、長期ケア支出の平均はGDP比1.8%、オランダは4.1%でした。したがって日本について「海外と比べ極端に支出が少ない」と単純化することも適切ではありません。(OECD)
問題は支出額の大小だけではなく、増加する介護需要を誰が、どの財源で支えるのかということです。
5.2 運営的・マンパワーの持続可能性
2026年度に「25万人の介護職員が不足する」という意味ではありません。
厚生労働省の推計は、2022年度約215万人に対し、2026年度には約240万人が必要になるため、約25万人を追加的に確保する必要があるというものです。2040年度の必要数は約272万人で、2022年度比では約57万人増となります。(厚生労働省)
しかし、生産年齢人口そのものが減少する中で、専門職だけを増やし続けることで対応できるとは限りません。
ここに、「制度は存在するが、サービスを提供する人がいない」というリスクがあります。
現金給付を検討する意味は、単なる財政削減ではなく、介護の担い手をどこまで専門職だけに限定するのかという問題にあります。
5.3 制度的持続可能性
第三の問題は制度そのものです。
医療と介護の報酬制度、給付ルール、記録、請求、情報連携が別々に発達した結果、その摩擦を現場が吸収しています。
ICTやケアプランデータ連携システムなどによる生産性向上は重要ですが、DXだけで介護人材そのものが生まれるわけではありません。
したがって、「デジタル化すれば現物給付モデルをそのまま維持できる」と考えるのも十分ではありません。
供給力そのものをどう再構築するかという議論が必要です。
6.まとめ――現金給付は「禁じ手」なのか
日本が現金給付を採用しなかったことには、歴史的にも制度的にも合理的な理由があります。
家族介護の固定化を防ぎ、女性を介護から解放し、専門的な介護サービス市場を形成するという2000年の制度設計は、日本の介護を大きく変えました。
その成果を否定する必要はありません。
一方、25年以上が経過し、介護保険を取り巻く条件は変わりました。
これから最大の制約になる可能性が高いのは、「お金」だけではなく「人」です。
海外の事例を見ると、現金給付は決して「家族に介護を押し戻すために無条件でお金を渡す制度」ではありません。
ドイツでは現物サービスと現金給付を組み合わせ、オランダでは個人予算を公的に管理し、スロベニアでは家族介護者そのものを制度的に支え、韓国ではサービス供給が難しいケースに限定して現金給付を認めています。
つまり、現金給付は「禁じ手」ではありません。
しかし、万能な解決策でもありません。
現金給付を導入しても、家族介護の固定化、ジェンダー格差、質、不正、財政といった問題は残ります。
したがって、日本が問うべきなのは、「現金給付を導入するか、しないか」という単純な二択ではありません。
むしろ、専門職による現物サービスだけでは介護需要を支え切れなくなったとき、誰を介護の担い手として制度の中に組み込み、どのように質と財政を管理するのか、という問題です。
日本の介護保険が掲げてきた「介護の社会化」という理念を維持することと、現物給付だけに固執することは必ずしも同義ではありません。
人口減少と人材不足が避けられない時代に入った以上、「家族に戻すか、プロに任せるか」ではなく、専門職・家族・地域・テクノロジーをどのように制度の中で組み合わせるのかを改めて設計する必要があります。
現金給付の国際比較は、その制度設計を考えるための一つの重要な材料です。
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